イギリスは「ゆりかごから墓場まで」といわれるように社会保障が充実したイメージがあります。
医療保健もナショナル・ヘルス・サービス(NHS)という国営の事業になっていて、イギリス人はもとより、住民登録をしている外国人も無料で医療サービスが受けられる、という気前のよさです。
しかし、実際住んでみて感じるのは「ただより高いものはない」という事実。
特に最近、キャメロン政権で政府の経費削減のスローガンのもと、いくつもの病院が統合や規模縮小になり、ますます不便になってきました。
イギリスではGPと呼ばれる主治医に登録し、からだに異変があるとまず自分のGPに相談に行きます。風邪や切り傷くらいならGPでこと足りますが、専門医の受診が必要になると、GPが病院を紹介してくれるシステムです。
しかし、自分のGPに予約を取るのですら、今日明日、というわけにはいきません。平均1週間程度かかります。そこから専門医の予約を取って次の病院に行かれるのは半月先、運が悪ければひと月もかかることすらあります。
急病の場合はA&Eという救急病院やウオーク・イン・センターと呼ばれる救急病院があるにはあるのですが、ここもひどい混雑です。
以前、1月2日の祭日に帯状疱疹でA&Eを受診したことがありますが、午後3時に受付をして、診てもらえたのが夜中の1時でした。
祭日で当番医が少なかったのか、救急車で運ばれた患者も、車いすに乗って心臓モニターをつけた患者も、頭から血をだらだら流した患者もすべて気の遠くなるような時間を待合室で苦しみながら待っていました。
「今夜は7時間待ちですので、ご了承下さい」とのアナウンスに、絶望的な気持ちになったことを覚えています。
ロンドン在住の友人は「胃がんの疑いがある」といわれた時点で、NHSで次の予約を取る代わりに、一番早い飛行機で日本に帰って入院しました。
まさにイギリスの医療はサバイバル、の感があります。
お金のある人は、高額の民間医療保険に入ってプライベートのクリニックでさっさと診療を受けています。
NHSの医師たちも、公立病院での勤務時間を終えると、プライベートクリニックでせっせとアルバイトをしているのが現状なのです。
貧富の格差と、実際には不公平な医療制度。確かに無料の医療制度は理想ではありますが、こういった現実を目の当たりにすると、2~3割程度の自己負担で専門医にすぐ診察してもらえる日本の医療制度はすばらしいといわざるを得ません。
「日本はダメになってしまった」などという声を聞きますが、そういう方にはぜひイギリスの病院を受診していただき、日本のすばらしさを実感してもらいたいものです。
(写真/高速道路も医療も美術館もタダ、と高福祉の国なんですが…)
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